福田雄一とマギーが語る、U-1グランプリのすべて —
<第1章> 2012/01/08

07年に福田雄一とマギーの二人で旗揚げされ、case1【取調室】を皮切りに08年にcase2【厨房】、10年にはcase3【職員室】を発表してきたU-1グランプリ。
限定されたシチュエーションに、独自の笑いを詰め込むその手法は、お笑いのみならず演劇界からも高い評価を受け続けている。
09年には二人のタッグによる台本、マギー演出の舞台『バンデラスと憂鬱な珈琲』が上演されるなど、その勢いはとどまることを知らない。

そんなU-1グランプリが12年、第4回公演となるcase04【宇宙船】に臨むにあたって、二人へのロング・インタビューを敢行。
旗揚げまでの経緯、共同創作の秘密、そしてcase04の展望とキャスティングまで、徹底的に語り合ってもらった。

<第2章> <第3章> <第4章>  <最終章>

[二人の出会い、そしてU-1グランプリを旗揚げするまで]

――本日はU-1グランプリが、case04【宇宙船】の公演に向けて動き出したということで、こちらのユニットが誕生したきっかけや実際の合作の様子、そしてコントという表現に対するお二人の思いをうかがっていきたいと思います。

マギー なかなかこうやって二人で取材で話すことってないよね。二人でファミレスとかでダラダラ話すことはあるけど、一緒にインタビューって2、3回くらいしかないよね。だから今回は二人の生い立ちからゆっくり…。

――ぜひ、お願いします(笑)。

福田 え、今日、そこまで時間があったかな(笑)。

――これまでのU-1グランプリの公演を振り返ると、お二人のコントに対する情熱がとても伝わってきます。こうしたユニットがどのようにして生まれたのか、そのあたりからうかがっていきましょうか。

福田 そもそも、一緒にやろうと誘ったのは僕からなんです。周りからは逆だと思われがちなんだけど。もっと遡ると、もともと僕がジョビジョバの1ファンで、マギーたちがザ・スズナリで公演をしている頃から観ていたんですよ。

マギー 97年くらいの話だよね。

福田 そこから毎公演に通ううちに、うちの妻まで巻き込んでなぜか1公演に3回くらい観に行くような、わけのわからない状況になってきて(笑)。最初に観たときから本当に感動したんですよね。当時はもう放送作家として仕事をしていたので、ぜひジョビジョバさんとテレビでお仕事ができたらうれしいです、とアンケートに書いたりして。その数年後、テレビの仕事を一緒にすることになってその話をしたら、マギーがアンケートのことを覚えてくれたんですよ。

マギー 僕としては自分たちのやっていることが、業界で笑いをやってらっしゃる人に刺さったのがすごくうれしくて。すごく印象に残っていたんですよね。

福田 当時の僕は極楽とんぼやココリコの座付き作家としてネタを書いていて、わりとお笑いのことをべったり考えていた時期だったんですね。そういうときにジョビジョバを観たものだから、ステージングを含めてすべてが素晴らしくて感動して。
 あんなものって当時の演劇界には、他に存在しなかった。コントをうまく構成して、ちゃんとエンタテインメントとして成立させて見せていて…まあ、シティボーイズさんのようなパターンは別としてあったと思うんですけど、あれとも違うポップ感がすごくあってテレビ向きだと思って。だからアンケートにもそう書き残したんですけど。僕ってご一緒したい人がいると、そこら中で言うんですね。「あの人と仕事したい」って(笑)。そうしたら偶然、僕の仲良しのディレクターさんがジョビジョバと仕事することになって、 そのディレクターさんから「ジョビジョバが好きって言ってたよね?」と誘っていただいて。だから最初は緊張でガチガチだったけど、メンバーの人となりを知るにつれて、すごく仲良くなれたんですよね。それでマギーとやりとりする中で彼と笑いの感覚がすごく合うのがわかったんです。
 その後、ジョビジョバは活動休止するんだけど、ちょうどその頃、僕も自分が主宰する劇団(劇団ブラボーカンパニー)に対する行き詰まり感があって。劇団は大学時代からずっと一緒にやっている仲間だから、どうしてもなあなあ感が出てきてしまうし、劇団員がみんな歳下でわりと僕が座長としてがっちり君臨している集団なので、僕が作るものに対して「いや、それは面白くないですよ」というやつもいなくて。だから自分の書いているものって果たして面白いんだろうかという不安感や、自分はもっと面白いものが書けるんじゃないかという期待感があった。
 それで対等の立場から面白い、面白くないを言い合える人と笑いがやりたい、と思ったときに「マギーがいるな」と思って誘ったんですよ。一緒にやってみないかって。

マギー ジョビジョバで活動していた頃に、いろいろなディレクターや作家の方とお仕事させていただいたなかで、福田さんは僕らのセンスをすごく面白がってくれる人だったんです。だけど、やっぱり僕にとってメンバーの五人と向き合うのが一番大事だったから、福田さんのことは「僕の感覚をわかってくれるやさしいお兄さん」という印象で、まさか数年後に舞台を一緒にやるようになるとはその頃は思ってもみなかったですね。
 それでジョビジョバを休止してからも、僕としてはコントが大好きだし、生の笑いとして舞台で活動したいと思っていたんですけど…、僕が新たに旗を振って新メンバーを集めたところで、まぁ絶対ジョビジョバは越えられないし、そもそも止めた意味もないし、じゃあそうならないようにするには、どんなメンバーを集めてなにをやればいいのかなと考えてたら、八方ふさがりになっている自分がいたんですよ。そんなときに、このやさしいお兄さんが…。

福田 (笑)。

マギー 一緒にやらない? と言ってくれたんですよね。それで「あ、そうか」と。僕が一人でなにかを率いてやるより、このお兄さんとちょっとふわっとしたノリでやれば、僕の重かった腰も上がると思ってたんですよ。
 ただ福田さんと笑いの感覚が合うのはわかっていたけど、ここまで相方感が高まるとは思いませんでしたね。この感覚は作品ごとにどんどん深まっている。普通、やればやるほどそういう感覚って離れていったりするものなんだけど。だからU-1グランプリという世界観の中で二人が出してくるコントに関しては、本当にズレがない。もちろんその中でお互いにスキルアップしている部分はあると思いますけどね。

福田 もうファミレスで朝の4時5時まで話してたりしますからね。女子高生みたいな感じですよ、完全に(笑)。

――お話をうかがっていると、それまではお二人とも所属する集団の中で、中心にならなければいけない部分があったというか、笑い以外の部分についても考えないといけない部分が大きかったように思います。

マギー うん、それは確かにそうですね。

福田 ここでは笑い以外のことに縛られることもないし、マギーという僕にはできない演出スタイルを持つ人とやることで、自分もいろいろ吸収できる。あとよく「合作ってうまくいかないでしょう?」と言われるんですよ。「やってて絶対ケンカになるし、ここは譲れねえという部分でぶつかったりするでしょう?」って。
 確かに自分の書いた台本をマギーに「こうしたらどう?」と言われて「それは違うだろ」と思っていたら、とっくに終わっていたと思う。でも僕は「マギーがそう言ったんだったらそのほうがいいよね」と思うんですよ。お互いに確固たる笑いのスタイルがあってこれまでやってきてますけど、僕はマギーに台本を直されることになんの抵抗も感じない。それってもう、絶対的なリスペクトがないと無理なんです。僕だって「お前に直されたくねえよ!」っていうのは確実にあるわけです、人によっては(笑)。でも、マギーに対してはないんですよね。僕の台本がどう切られようとも、変えられようとも、僕にとっては「どうぞどうぞ」なんです。

マギー 僕のほうは、福田さんが放送作家をベースに活動してきたからこその、アンテナのめぐらし方とかキャパシティの大きさ、それは一役者がベースである僕にはないから、そこをすごく信頼しているんです。だから「福田さんがそう言ってるなら、それがいいんだろうな」と素直に思える。それは福田さんの言う「台本を直されても嫌だと思わない」というのと同じ感覚ですよね。「ここはこの人のアイディアに乗っかるのが気持ちいいんだろうな」と思える部分がすごくある。

――そんなお二人がコントをやろうとなったのは、どういういきさつからだったんですか?

マギー 今にして思えば「二人でなにかやろうよ」となったときに、福田さんが台本を書いて僕が演出をして、それで一本の舞台をやるという選択肢も考えられたとは思うんですよ。でもそのときはなぜか最初から、迷いなくコント集をやりたいと思っていたし、そこについてはとくに話し合った記憶もないんですよね。やることを決めるのと同時に、コントをやることになっていた気がしていて。

福田 そうなんだよね。

マギー なんでコントだったのか。それは縛られずに自分が面白いと思うことをやれる、最短距離のところにあるのがコントだからだと思うんですよ。もちろんドラマや映画の脚本の中にオモシロを入れこむ作業とか、演者として演技で笑いの要素を台本に織り込んでいく作業も面白いんだけど、一番ズバッとストレートに、自分の持っている「これ、面白いと思うんですけど」刀で(笑)、最短距離で居合い斬りできるのがコントなんですよね。

福田 そうそう。「面白いんだけどこれ、一本のドラマや舞台にはならないな」という理由で、捨てないといけないアイディアを、コントは形にすることができる。だから「これ、本当にずば抜けて面白いアイディアなんだけど、まあ4、5分しか持たないよね」というようなものでも…(笑)。

マギー それをそのまま4、5分でやればいいじゃん、ということだもんね。

福田 そういうものだと思うんですよね、コントって。

――浮かび上がった笑いのアイディアを、器の形に合わせるのではなく…。

マギー そうそう。打ち合わせのデニーズで、僕と福田さんがもう二人にしかわからないような共通言語を使いながら、笑っているわけじゃないですか。ほぼそれに近い形で「それ、デニーズで言うてたやつやな」という感じのままボン! とお見せできるのが、コントの素晴らしさ。あとね、U-1グランプリがうまくいっている理由は、ワンシチュエーションコント集を思いついたからだと思っていて。

福田 そのフレームが優秀だったんだよね。

マギー うん。お互いボケたいほうだから(笑)。「俺、面白いコント書いた」、「くやしい、俺ももっと面白いコント書く」、「あ、あいつのコントもっと面白い!」みたいなことをやり合っていきたいねと思っていたし、それをするのに最適だったなって。


第2章に続く…

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