福田雄一とマギーが語る、U-1グランプリのすべて —
<第4章> 2012/02/17

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[二人のコメディエンヌに寄せる期待と目論み]

――その感覚を重視する姿勢は、キャスティングにも発揮されているように思います。

マギー そこはもう肝です!

福田 ここは毎回、すごく悩みますね。

――ではキャストの方々について、お話し願えますでしょうか。

マギー まず、(池谷)のぶえさんはね、僕は『獏のゆりかご』というお芝居で初めてご一緒したんですけど、その時からいつかは一緒にコントをやりたいと思っていて。どういうタイミングでどういう座組のときにやれるかなとずっと思っていたんですけど、今回満を持して僕と福田さんの頭の中で、同時にザブンと浮上してきた感じですね。

福田 だから念願叶ってという感じです。

マギー 僕はそれ以降も舞台で共演してるんですけど、稽古中にお話しさせていただくと「今度いっしょにやろうよ!」とか「いいなあ、コント」とかいう話になる。本当にコントが好きな方なんですよ。

福田 僕はたぶん、舞台で池谷さんを観たのはKERA・MAPの『砂の上の植物群』が初めてだったと思うんだけど、抜群に面白くてこんな人がいるんだと思った。もちろんお名前は知っていたんだけど、すごいと思って。
 だからU-1の前にフライングして『勇者ヨシヒコ〜』にも出てもらったんだけど、あのときも面白かった。もう「こんな人が座組にいたら、作家は楽でしょうがないな」という気持ちになりましたよ。

マギー 本当にいろいろなコメディ、コントをやるときに、信頼をもって4番を打ってもらる人ですから。この人が4番にいることで安定した座組を作れるというか。そういう人で女性というのは稀有な存在ですよね。

福田 優秀な役者さんはみんなそうなんですけど、池谷さんは自分がどう見たら一番面白いかを知っている人なんですよね。もうそれを出されたら周りは笑うしかない。

マギー 笑いの必殺技を持ってるからね。

福田 『勇者ヨシヒコ〜』に出てもらったときは本当に短い場面だったんですけど、短い場面だからこそ、登場して即座に十八番である笑いの剣を抜かれて。それをブンブン振り回していただいたから、こっちはもう、わーっていう感じでしたね。

マギー さっき言った『獏のゆりかご』のときに、同じ役者としてびっくりしたことがあって。のぶえさんって、本読みの段階でのクオリティの高さがすごいんですよ。あそこまで本読みから完成度が高い人に会ったのは、初めてでしたよね。「あ、もうできてるこの人」っていう。それはやっぱりご自分の方法論を持ってらっしゃるからでしょうけど。

福田 だから僕の野望としては、あの十八番をいつも目一杯見せていただいているので、それ以外の…、なんか五番くらいのやつをね。引っ張り出せればなあと。

マギー 二十七番のやつとかね(笑)。

福田 そう。「池谷さんの二十七番はまた面白いですねえ!」っていうことにしたいという。十八番は一本、ガツンと振り回してもらえるコントを用意するので、それ以外のコントでは二十七番とか五十二番あたりを出してもらえればいいよね。そうしたら僕らとしても意義のあるライブになるんじゃないかな。

――池谷さんの新たな一面が見られるかもしれないと。では次に高橋真唯さんについてお聞かせください。

福田 まいまい(高橋真唯)とは最初に『プロゴルファー花』というドラマでお仕事をしたんです。役柄としては加藤ローサちゃん演じる天然の女の子を、やきもきしながらフォローしていくというような感じで。だからドラマの面白部分は基本、石黒賢さんと片瀬那奈ちゃんが持っていく作りだったんだけど、まいまいはちょっとでも笑いのチャンスがあったら、迷わずぶっ込んでくるんですよ(笑)。面白いことがやりたくてうずうずしていた感じだったし、僕も「その意気買うよ!」と思って。
 それでドラマが終わったときに、今度はもっとがっつり笑いができるお仕事をしようと言ったんです。わりとそういう約束をした人とは、だいたいU-1でやることになるんですよね。case03の野波麻帆ちゃんもそうだったんですよ。彼女とは『33分探偵』をやったときに、今度はがっつり笑いをやろうということでU-1に来てもらった。
 だからドラマの現場で出会ったコメディエンヌとして光るものを感じた方を、U-1にお呼びして自由にやってもらうというスタイルができているのかな。

マギー なるほどね。ちなみにキャスティングについても台本と同じように「俺、この人がいいと思っているんだけど」という候補を半々で持ち寄る感じなんですよね。もちろん最終的には二人で協議するから、台本のように初日にドン! で来てもらうわけではないけど(笑)。

福田 だからcase03のときに山西さんに出ていただいたけど、お会いするまでは怖くてしょうがなかった。山西さんがコントの台本を見て「こんなのを俺にやらせるのか!」って怒ったらどうしようと思って。もちろんお名前やお仕事振りは知っていたけど、人となりについてはまったくわからなかったですから。

マギー でも僕が「山西さんは絶対面白いから!」と言って、出演をお願いしたんだよね。キャスティングも互いが呼んでくる人については絶対の信頼を置いてますね。
 高橋さんとはこの間、スチールの撮影で初めてお会いしましたけど面白いことができそうだなと感じたし、たたずまいを見て「こういう風に使ってみたいな」とか、僕の中でイメージをすごくかき立ててくれた。初めての人とやるというのも一つの楽しみですからね。気心が知れた同士の中に新しい人が入ってきて「さあ、なにを作ろう?」という。



[自分の笑いを信じている人と、一緒に作りたい]


――そうした女優陣に加えて、今回は芸人のジューシーズのみなさんが参加されますね。

福田 ジューシーズも僕が連れてきた人たちなんですけどね。わりと芸人さんを連れてくる係は僕というか。case01の平成ノブシコブシとcase02の上地春奈ちゃん、そして今回のジューシーズは僕が連れてきて。それは単純に芸人さんに対するアンテナをマギーが僕に任せてくれているということなんですけどね。座組の中に芸人さんがいると、舞台での笑いの跳ね方が全然、別物になるんですよ。

マギー case3は役者だけの座組だったので、あれはガチッとした作品になりましたね。それはそれでありなんですけど、芸人さんが入ると笑いの跳ね方が変わってくるし、芸人さんに来てもらうたびに、あの人たちの笑いの地肩に驚かされるんですよ。
 役者って受けなかったら「どうしよう」と逃げ腰になるんだけど、芸人さんには受けなくても、それを笑いにしようとする強さがある。役者たちの中にそういう芸人さんが入ってコントができるのは、U-1しかないなと思っていて。

福田 だから役者と芸人と素人という、絶妙の座組が生まれるわけです(笑)。役者さんと芸人さんの融合って、あんまり舞台では見れないじゃないですか。それだけにそこで笑いが生まれるのを目撃するのは本当に面白い。役者さんは芸人さんの見たこともない笑いの力を目の当たりにする。そして芸人さんは芸人さんで、役者さんのお芝居に対するアプローチの仕方に驚く。その化学反応がすごく面白いんです。
 たとえば平成ノブシコブシは単純に吉村の攻撃的な面白さを見込んでcase01に呼んだんですけど、稽古が始まってみるとツッコミの徳井がやたらと小器用な芝居を…。

マギー それを僕が面白がるという状況が、生まれて(笑)。
 
福田 その面白がり方に吉村が、すごくイライラしていたり(笑)。そういうのがすごく面白いんですよね。

マギー case01のときでいえば、八十田さんとかの、しっかりしたキャラクターに乗っかった芝居の作り方を吉村くんも徳井くんも見て、学んでいるなという感じがあった。「こういうやり方があるんだ」と稽古場で笑いながら学んでいたと思うし、上地にしてもここではいつもやっているコントとは、違うやり方を学ばないとダメなのがわかったみたいで。そういう意味で、僕たちとしても彼らに新しいなにかを受け取って帰ってもらえているような感覚がある。そしてこちらは、彼らから笑いという大きなプレゼントをもらっているわけで。
 今回のジューシーズも福田さんからのプッシュに「いいね!」と即答しましたね。それは彼らが僕が好きな種類のコントをやっていたということもあるし「こいつら本当にこんなんが好きなんだなぁ」という、自分たちの笑いに対するピュアさが伝わってきたから。僕がジョビジョバでやっていたようなノリを感じたな。あと、彼らもそこそこ年齢を重ねているから演技のスキルもあるんです。状況設定の芝居とかもすごく上手い。そしてなによりDVDを観てかわいいと思えた。

福田 だから今回の宇宙船というパッケージに合うと思ったんだよね。さっきの話に戻るんですけど、「パッと見で面白そう」というところに彼らがはまったんですよ。デブの赤羽(健一)とチビの松橋(周太呂)、そしてイケメンの児玉(智洋)という…、まあ、中途半端なイケメンですけど。

マギー (笑)。

福田 てんぷくトリオから続く、わかりやすく面白そうという系譜にあるトリオなんです。そして僕が一番大事にしている「嫌なやつとはやりたくない」ということもクリアできる(笑)、まあ気のいい連中なんですよ。
 やっぱり舞台に立つと嫌なやつの嫌なところって見えちゃう。人間、舞台に立つと余裕がなくなって丸裸じゃないですか。しかも芸人さんって本当にスレスレのところで勝負していて、笑いが生まれなかったらおしまいですから。そういう極限状態だからこそ、彼らのように人間的に信頼できる人たちとやりたかったですよね。

マギー 僕は舞台に立つ側でもあるけど、笑いの1ファンとして――もちろんネタの構造とかにびっくりすることもあるけど――最終的に見ているのは、演者自身の笑いへの向き合い方というか、ハートの部分だったりするんですよ。

福田 芸人にも二通りいて「これ、面白いだろう!」と思うことを押し出してくる人と、面白がらせようとして、策略を持ってお客をはめ込もうとする人がいる。僕もマギーも、とにかく自分が面白がっていることを押し込んでくる人が好きなんです。

マギー だからやっぱり、本人たちが自分の笑いに対しての核の部分、そこの面白さを信じているのかどうかということですよね。そういう思いはもちろんみんな持っているとは思うんだけど、それがダイレクトに伝わりやすい人たちと、そうでない人たちがいて。やっぱり平成ノブシコブシとかジューシーズっていうのは、それがダイレクトに伝わってくる人たちなんですよ。
 だからcase04では、むしろ僕がジューシーズの仲間に入りたいと思ってしまうくらい、楽しみですね。極端な話「あのネタ、俺を入れてやらない?」みたいな。

福田 (笑)。僕が楽しみにしているのはね、松橋が若干、マギーとキャラがかぶっているところなんですよね。だからこの二人でコントやったら相当面白いんじゃないかと思っていて。

マギー えっ、そうなの(笑)。僕は児玉くんとかぶっている感じがすごくしたんだけど。ボケたがりですよね児玉くんは。ライブではツッコミをやっているんだけど、本当はもっとボケたいんじゃないかなって。

福田 明らかにボケたがりの顔をしているよね(笑)。

マギー 「ボケたいけど自分はツッコミだから」と思って自制している感じが、非常に僕に通ずる部分がある(笑)。今回は児玉くんがいるので、僕も安心してボケられるのかもしれないね。児玉くんもボケたくなったら僕がツッコむから、思い切ってボケてもらえればいい。やっぱり、こういう座組の化学反応というのは大きいんですよね。
 今、稽古をしている『スパマロット』の現場では、アンサンブルさんたちという今まで出会ったことのないタイプの方々とやらせていただいているんですが、「なるほどこういうふうにやるんだ」と知ることが本当に多くて。自分の引き出しのなかに新しいものを入れてもらえている感じがすごくする。
 だからジューシーズも我々とやることで、なにか感じるものがあったら、きっとそれはすぐにcase04の中に生かされると思うし、ジューシーズの今後のネタにも反映されると思う。

福田 case02のときも上地は、マギーからいろんなことを教わってたもんね。ちゃんと一本の舞台をやるときにちゃんと演技ができなかったら、お客さんも受け入れてくれないし最終的に自分の笑いも死ぬことを、彼女はあのときに学んだと思うんですよ。
 彼女は根っからの芸人さんだから、出てきて頭からなにか面白いことをやれば笑ってもらえるし仕事として成立した。でもそれで成立しないところに初めてぶち込まれて、いろんなことを学んだと思う。…あとは、これまでにU-1に出た人は売れるというジンクスがありますから…。

マギー (笑)。

福田 ジューシーズもぜひ、ここで売ってあげたいですね(笑)。



最終章に続く…。

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