福田雄一とマギーが語る、U-1グランプリのすべて —
<第3章> 2012/02/03

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[役者・福田雄一が語る、case4に向けての決意]

――自由度という部分では、このユニットでは福田さんも出演されていますよね。

マギー それも一つ、でかいよね。そこは僕が引きずり込んだんだけど(笑)。

福田 完全に引きずり出されたんですよね…。最初のcase01のときにキャスティングを考えていく中で、最初は文化人みたいな人がほしいって言っていたんですよ。それで「誰だったら出てくれるだろうね」という話をしていて。それで下北の中華料理屋でメシを食べていたときにマギーが「俺、めっちゃいい人を思いついた!」というから、「誰やねん、それは?」と聞いたら、「福田さんや」って。「ええっ!? マジかよ!」という話ですよ!

マギー そこはジョビジョバの反動もあるんですけどね。役者さんや芸人さんでキャストを固めていくときに、「だったらU-1じゃなくて、ジョビジョバでよかったじゃん」ってなるのも嫌だなと思って。まあ、あの中には素人みたいな人もいたんだけど…。

福田 (笑)。

マギー チーム感のあるジョビジョバとは違った、どうしようもないヌケ感を座組の中に作りたかった。だから最初は役者じゃない人に出てもらって「え、どうしちゃったんだろうあの人」みたいな役割の人がほしいなと思っていたんだけど。ただその人を呼ぶとなるとたくさん出てもらわないといけなくなって、結果その人が全部オチになってしまうじゃないですか(笑)。それじゃあダメだなと思ったときに、福田さんだったら2、3本出てもらって、「なんだったの、あの人?」というジョーカー的な使い方でいけると思いついて。ふだんから面白い人だし、僕とのコントが定番としてあったら面白いなとも思ったんです。

――福田さんとマギーさんのコントは、case02の海原雄山ネタとcase03の目玉おやじネタを拝見しましたけど、どちらもめちゃくちゃ面白かったですね。

福田 case01のロボット刑事も面白いんですよ(笑)。まあ、そういうことをやってみて、僕の中でも非常にいろいろな発見がありましたけどね。

マギー 本当に舞台に立つのはこれが初めてだったの?

福田 大学生のときに僕が演出を始める前に所属していた劇団の公演に出たことはある。「俺は役者になりたいわけじゃないんで」と言って入っていたから、ほんのちょい役なんだけど。舞台に出て、ほんの一言二言しゃべっておしまい、というような。

マギー そのときはオモシロ担当だったの?

福田 面白じゃなかった。全然。

マギー じゃあ精一杯、スッとした感じでやってたんだ。

福田 だってもう、今と違ってまだやせたし。若干顔もかっこよかったから。いい感じに使ってもらってたんですけど。

マギー へええ(笑)。

福田 でも役者としての自覚がないからさ、僕にまったく。

マギー それは今もないでしょ(笑)。

福田 まあ、そうだけど(笑)。だからひどいもんだったと思いますよ、当時はね。19歳くらいの頃ですから。

マギー じゃあ二十幾歳のときを経て、再び舞台に立ったわけですか。

福田 だからまあ初舞台みたいなもんでしたよ、感覚的にいうと。そしてやってみて僕の役者としての特徴に気づいたという。それは台本にあるせりふをしゃべろうとすると、どうしてもしゃべれずに、迷宮に入っていってしまう点なんだけど(笑)。マギーと二人きりでやるコントは非常に自由で一応、台本はありますけど、もう初日から舞台に出たときのお互いの感じでやるというか…。

マギー お互いの感じとお客様の感じというか、ごきげんをうかがいながらやっている感じだよね。

福田 ほとんどその場で出てきたせりふでやってる(笑)。お客様がやさしかったら、せりふもどんどん出てくるしね。ひどいときは12、3分くらいやったりして、公演で一番長いコントとして君臨しているんですけど。まあ、あのシリーズでは仮面をかぶって自分の顔が見せてないから強気になれるんですよ。だから適当なせりふはペラペラ出てくるんだけどたった一言、台本の通りに言わないといけないせりふが出てこない。たった一行なのに噛んだり、間違えたり、忘れたりするんですよ。

マギー それが楽しいんですよ。見ているほうはね(笑)。

福田 だからもう、毎回ドキドキなんですよね。

マギー でも福田さん、上手でしょう?

――はい。ものすごく楽しみながら、やられているように見えましたが(笑)。

福田 case01のときに(佐藤)二朗さんとつぐみちゃんがいる部屋に入っていって、「ヤマシロさん、署長がお呼びです」と言う場面があったんですけど、そのせりふがちゃんと言えないんですから。ドアの前で出番を待っている間、延々と20回くらい練習して舞台に出るんですけど「署長がお呼びです…ヤマシロさん」とか逆になったりする(笑)。僕はそのときに役者さんという仕事はすごいな、としみじみ思った。人が書いてきたせりふに感情を乗せて、しかも正しく言うなんて、なんてすごい仕事をされているんのだろうって。

マギー (笑)。まあU-1には、福田さんが役者として出るのが一つの価値としてあるとは思うんですよね。あるときは必要悪であり、あるときは強力な武器になる(笑)。

福田 だから普通にお仕事をしているディレクターやプロデューサーにスケジュールの話をするとき、「この時期はU-1がありまして、一応、僕も出ているので本番中はずっといないといけないんですよね」と言うと、「え、出ている?」と不審げに言われて。「舞台に、出ているのですか?」、「舞台に出てるんです、役者として出ているんです」というやり取りを通じて、先方がすごく驚いているのが伝わってくる(笑)。

マギー だから僕がcase04のフリを一つ、ここで入れておくと福田さんはcase04で今までで一番の役者っぷりを見せると言っているんですよ。

福田 役者じゃないということを、もう武器にはしない。

マギー 今まではそれを一つの武器にして、笑いをとってきたけど…。

福田 今度はちゃんとした演技派の役者として、演者のみなさんと渡り合う。

マギー 渡り合う!(笑)。そこはcase04ならではのお楽しみですね。

福田 そう決めてるんです。だからマギーと二人でやるコントにも、もう笑いなんかなくていいんじゃないかと思ってるんですよ。僕のシリアスな演技を、マギーが素人をいじるみたいに扱おうとしたら「(シリアス調で)…なにを言ってるんだ?」といなすようなコントをしたいと思ってるんですよね。

マギー 怖い、怖い(笑)。それはもうcase03が終わった頃から言い続けているんでね。だから本当にそうなるんじゃないですか。

――満を持して、演技派としての一面を…。

福田 だから本番までには体重も、今から10キロくらいは減ってるでしょうし。

マギー 男前の個性派として。大型新人だね。

福田 でも本当に、観に来た演出家さんとかに「ちょっと使ってみようかな」と思わせるくらいの役者になっていたいんですよ。ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが観に来て、「ぜひ、次の芝居に…」って言われるような。

マギー でも実際にKERAさんは福田さんを見て「あの人、上手いね」っておっしゃってましたからね。

福田 えっ! なにをもってそう言ったのか、まったくわからないけど。

マギー 「ちょっと、焦った」って言ってましたから。かつて自分で台本を書いて、ちらっと出演もされていた時代のことを思い出されての言葉だったと思うんですけど。そういうことをやってこられた経験から、「この人、ちょっと上手いね」と思ったんでしょうね。

福田 ところがそのあと、ナイロン100℃からまったくお呼びがかからない。

マギー (笑)。

福田 だから次はナイロン100℃からオファーをいただいて、来年の本多劇場での公演に出演しているくらいの役者になっていたい、という気持ちはあるんですけどね。

マギー それは楽しみだね。…もはやこれがフリなのかなんなのか、わからないけど(笑)。


[case04が宇宙船の理由、そしてcase04まで続けられた理由]

――ではそれをcase04へのフリだったと解釈して(笑)、次回公演のcase04【宇宙船】についてお話をうかがいたいと思います。ワンシチュエーションとしては、これまでに取調室、厨房、職員室が登場しましたが、今回は一転して宇宙船ということで。

マギー 基本的に舞台をどこにするかの最終決定権は、僕は福田さんにゆだねてるんですよ。そこは僕がやさしいお兄さんからおもちゃをもらうような感じで、決めてもらっていて。まあ今までリアルな場所が続いたということもあるんですかね。

福田 そうね。あとファンタジーな場所を舞台に設定すると、わりとリアルな感じのコントができるという傾向があるんですよ。逆にふだんの生活の中にある場所を舞台にすると、案外ファンタジーな感じのコントになる傾向があって。

マギー cace01の取調室って、意外とみんなが知らない場所じゃないですか。

福田 ある意味、ファンタジックな場所なんだよね。

マギー だから上がってくるコントはリアルなものが多くなるというか。厨房と職員室はみなさんがよくご存じの場所だし、だから「そこをそう使うか!」というファンタジックなコントが生まれたりする。厨房でミュージカルをやってみたり、職員室で『坊ちゃん』をモチーフにした劇中劇をやってみたり。跳んだ表現になっていくところがあって。

福田 バランス的なことなんですけど、次は人間のリアルなキャラクターで遊ぶコントのほうが面白いんじゃないかと思ったんですよね。それには日常的ではない場所に舞台を置いたほうがいいんじゃないかと思って。4回目だし、ちょっと日常からポンと飛んでみてもいいんじゃないかなって。だからこれは予想ですけどcase04では僕もマギーもしみったれたコントを書くんじゃないですかね(笑)。あと「舞台が宇宙船だったらこんなことができるね」と言って、マギーが池谷(のぶえ)さんの物まねで、「あのー、波動砲を撃ってもよろしいでございますか?」と言ったときにめちゃくちゃ面白くて、この設定はいけると確信できたんですよ。
 あと単純に設定とのギャップ感があるコントが作りやすいから、書き手としては入りやすいですよね。ふだん誰もが見ている場所だとそういうギャップ感が出せないから、ミュージカルみたいなことになるんだと思うんですよ。だから今回は「別にそれ、宇宙船で話すことでもないんじゃない」みたいな話とか…。

マギー そういう方向性もあるだろうし、いわゆる『スタートレック』のような、SFのパロディの方向にいくのもあるよね。case04のチラシはそういう感じで作ってますけど、パッケージ感がはっきりしていて、非常にわかりやすいですよね。ちょっと今までにないワクワク感がある。

福田 この間、チラシのデザインを見て思ったけど、これまで公演の中でもワクワク感が半端なくあるよね。

マギー どちらの方向にもいけますしね。しみったれた…というのもおかしいけど(笑)、そういう面白さにもいけるし、もっとポップな感じにもいける。だからいつもコントの数は11、12本くらいでまとめてますけど、もっと数をやりたいなという気持ちもあるし、今回は本数が増えるかもしれない。

福田 あと今ってすごく時代的に、面白い感じがストレートに押し出されたものが好まれているんだと思うんです。それはずっとバラエティをやってきた僕の感覚なんですけど。「ちょっとのぞいてみたら面白いよ」というよりも、あからさまに面白そうなもののほうが、みんなとっつきやすいんですよね。
 だからこの間僕がやったテレビドラマの『勇者ヨシヒコと魔王の城』がその最たるもので、パッケージを見た瞬間に面白そうと思えるようなものが時代的に合っているし、求められている。それは今、日本が大変な状態だということもあるんですけど、「ちょっとじっくり見てみたら面白いかもよ」というものに目を向けてもらうのが難しい。
 それはテレビだけじゃなく、舞台も今そんな感じなんじゃないの? と思っていたりもするんですよね。だから「パッと見て面白そう、じゃあ見てみよう」という時代感と、今回の宇宙船という設定がすごく合っているんじゃないかと思って。

マギー ただ、福田さんは聞けばこうやって論理的に説明してくれるんですけど、実のところを言えば、すごくクレバーに考えて、お互いに二人でやるのが一番だとか、ワンシチュエーションだったら二人の良さを生かせるとか、こういう執筆法ならいけるとか、そういうふうに戦略的に考えてやっているわけでもないんです。
 結局は偶然性と、やりやすいほうを選んでいく流れの中でcase04までやってこれたというか。二人でやっていくうちに、非常にやりやすい状況が生まれてきたという感じなんですよ。

――分析をすることはできるけど、最終的にはここまで進んでこれたのは、お二人の感覚を信じてやってきたから、ということですか。

マギー だから感覚的というか、直感的な部分がすごく大きいと思う。二人とも演出の仕事をしているから、自分の意図を人に説明することは慣れているんだけど、やっぱり最初に一緒にやろうと思ったのは、肌で感じる部分が大きかったというか。なにか面白そうだと嗅覚が働いたというか、そういうところなんですよね。そういう感覚がビンビンに働くのがU-1だし、その感覚にビンビン来た人たちに出てもらっているわけだから。

福田 結局はお互いの肌の感覚に尽きるよね。最終的には「こんな感じでやりたいな!」と思ったということでしかないから。だからもちろん今までお話したことも本当ではあるんだけど、そこには考えて出した答えという部分はあるかもな。ある意味、逆の論理というか。

マギー だからスタートはわりと感覚的な部分からだったんですよ。

――たとえば他のお仕事では、感覚的な部分だけではなく論理性というか、さまざまなことに根拠をあげて説明を求められる場合も多いのではないですか。

マギー コンセプトあってのスタートみたいなね。マーケティングして、この時間帯はこういう人たちが見るので、こういう作品が必要。だからこういうキャスティングで、というような。

福田 まあ、それはそれで楽しい部分もあるんだけどね。

マギー 結果としてそっちにいくのはいいんだけどね。ただ0から1になったときに、それが自分自身で「わっ!」と面白く思えたアイディアなのか、それとも条件を固められた中で「じゃあ、これですかね」と出てきたものなのか。結果が同じであっても、そこには初期衝動の強さとか、初速のスピードの差があるような気がするんですよね。そういう意味では、U-1は「好きだから」という原点があってやっているユニットといっていい。

福田 そうだよね。だからこそ、最終的に「そこに計算なんていらねえよ」ってことになるんだもんね。


第4章に続く…

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